
こんにちは!うさたんです♪
東京海上HDの深掘りシリーズ第2回では、国内損害保険、国内生命保険、海外保険、ソリューションという4つの事業を確認しました。
今回は、そこから一歩進んで「保険会社はどのように利益を得ているのか」を確認します。
保険会社は、契約者から受け取った保険料がそのまま利益になるわけではありません。事故や災害が起きれば保険金を支払い、保険を販売・管理するための経費もかかります。一方、受け取った保険料などを債券や株式で運用し、収益を得ることもできます。
東京海上HDの利益を考えるうえでは、主に「保険引受」と「資産運用」という2つの入口を理解することが大切です。
今回は簡単な数字を使いながら利益の仕組みを確認し、その後、東京海上HDの強み、成長戦略、注意したいリスクについて見ていきます🐰
🌟企業HP
- 保険会社はどのように利益を得ている?
- 100円の保険料を受け取った場合で考える
- 保険本業の収益性を見る3つの指標
- 契約を増やせば利益も増えるとは限らない
- 集めた保険料を運用して利益を得る
- 東京海上HDの強み① 規律あるアンダーライティング
- 東京海上HDの強み② 北米スペシャルティ保険
- 東京海上HDの強み③ 地域と事業の分散
- 東京海上HDの強み④ グループ会社の知識を共有できる
- 成長戦略① 国内の新しい保険需要を取り込む
- 成長戦略② 北米と新興国の事業を拡大する
- 成長戦略③ 保険とソリューションを組み合わせる
- 強みがあっても確認したいリスク
- 一つの数字だけで判断しない
- おわりに
保険会社はどのように利益を得ている?
保険会社の利益の仕組みは複雑そうに見えますが、まずは次の2つに分けて考えると分かりやすくなります。
| 利益の入口 | 簡単なイメージ |
|---|---|
| 保険引受による利益 | 受け取った保険料から、保険金や事業経費などを差し引いて得る利益 |
| 資産運用による利益 | 保険料などの資金を債券や株式などで運用して得る利益 |
簡単にいえば、「保険そのもので得る利益」と「保険料などの資金を運用して得る利益」です。
ただし、契約者から受け取った保険料が、そのまま保険会社の利益になるわけではありません。事故や災害が発生すれば保険金を支払い、代理店手数料や人件費などの経費もかかります。
100円の保険料を受け取った場合で考える
ここでは、保険会社が100円の保険料を受け取った場合を例に考えてみます。
| 100円の保険料の使われ方 | 金額 |
|---|---|
| 事故や災害に対して支払う保険金など | 60円 |
| 代理店手数料や人件費などの事業経費 | 30円 |
| 保険本業で残る金額 | 10円 |
この例では、受け取った保険料100円から、保険金などの支払い60円と事業経費30円を差し引き、10円が残ります。このように、保険契約を引き受ける本業から得られる利益を、保険引受利益といいます。
もちろん、実際の決算では、将来支払う保険金に備えるための準備金や再保険なども関係するため、これほど単純ではありません。
ただし、保険会社がどのように利益を得ているのかを理解する第一歩としては、「受け取った保険料から保険金と経費を差し引く」と考えると分かりやすいと思います。
保険本業の収益性を見る3つの指標
保険本業の状態を確認するときに使われるのが、①損害率、②事業費率、③コンバインド・レシオです。
先ほどの100円の例に当てはめると、次のようになります。
| 指標 | 今回の例 | 確認できること |
|---|---|---|
| 損害率 | 60% | 保険料に対して、保険金などの支払いがどの程度あったか |
| 事業費率 | 30% | 保険料に対して、代理店手数料や人件費などの経費がどの程度かかったか |
| コンバインド・レシオ | 90% | 保険金などの支払いと事業経費を合わせた割合 |
コンバインド・レシオは、損害率と事業費率を合計した指標です。
今回の例では、損害率60%と事業費率30%を合わせて90%となります。受け取った保険料100円に対して、保険金などの支払いと経費が90円だったため、保険本業では10円が残る計算です。
基本的な見方は、次のとおりです。
| コンバインド・レシオ | 基本的な見方 |
|---|---|
| 100%未満 | 保険本業で利益を確保しやすい✨ |
| 100%前後 | 保険本業の収支がほぼ均衡している |
| 100%超 | 保険金などの支払いと経費が保険料を上回っている💦 |
数字が低いほど利益を残しやすくなりますが、低ければ無条件に良いわけではありません。保険料を高くしすぎれば顧客が離れる可能性があり、経費を減らしすぎれば事故対応やサービスの品質に影響することもあります。
また、大規模な自然災害が発生した年は、一時的に保険金の支払いが増え、コンバインド・レシオが上昇する場合があります。そのため、一年度の数字だけでなく、複数年の推移や自然災害の影響も含めて確認する必要があります。
契約を増やせば利益も増えるとは限らない
保険会社にとって保険料収入を増やすことは大切ですが、契約を増やせば必ず利益も増えるわけではありません。
例えば、年間1万円の保険料を受け取る契約でも、事故が起きる可能性が高く、保険金や経費として平均1万円を超える負担が発生するのであれば、契約を増やすほど収益が悪化する可能性があります。
そこで重要になるのが、アンダーライティングです。
保険料収入の大きさだけでなく、「引き受けた契約から、きちんと利益を残せているか」が保険会社を見るうえで重要になります。
集めた保険料を運用して利益を得る
保険会社には、もう一つの利益の入口があります。それが資産運用収益です。
契約者から保険料を受け取ってから、実際に事故や災害が発生して保険金を支払うまでには時間があります。保険会社は、その間の資金などを債券や株式で運用し、利息や配当金を受け取ります。
| 主な運用資産 | 得られる収益と主な注意点 |
|---|---|
| 国債・社債 | 利息を受け取れるが、金利変動の影響を受ける |
| 株式 | 配当金や売却益を得られる可能性があるが、株価下落の影響も受ける |
| 外国証券 | 利息や配当を得られるが、為替変動の影響も受ける |
| その他の資産 | 収益源の分散が期待できる一方、資産ごとに異なるリスクがある |
このため、保険本業の収支が一時的に悪化しても、資産運用収益によって会社全体では利益を確保できる場合があります。反対に、保険本業が好調でも、株価や債券価格の下落によって運用面で損失が発生する可能性があります。
東京海上グループは、これまで多くの政策保有株式を保有してきました。
政策株式を売却すれば利益が発生する場合がありますが、売却益は保険本業から毎年得られる利益とは性質が異なります。
そのため、東京海上HDの継続的な収益力を見る場合は、政策株式売却益を含む利益だけでなく、それを除いた本業の利益も確認したいところです。
東京海上HDの強み① 規律あるアンダーライティング
東京海上HDが強みとして挙げているのが、リスクを適切に見極めるアンダーライティング力です。
国内損害保険では、火災保険などの損害率を抑えるとともに、採算性の低い契約の見直しや保険料の改定を進めています。また、代理店制度や業務の見直しを通じて、事業費率の改善にも取り組んでいます。
保険会社は、保険料を引き上げれば収益性を改善できる可能性があります。しかし、顧客が納得できない保険料になれば、契約を維持できなくなるかもしれません。
重要なのは、契約ごとのリスクを分析し、引き受けるリスクと保険料のバランスを取ることです。単純に保険料収入を増やすのではなく、利益を確保できる契約を積み上げる力が、東京海上HDの保険本業を支えています。
東京海上HDの強み② 北米スペシャルティ保険
海外事業では、北米のスペシャルティ保険が大きな強みとなっています。
特殊なリスクを扱うため、保険料の設定や契約内容の設計には、専門知識と過去のデータが必要です。誰でも簡単に参入できる分野ではないことから、高い専門性を持つ企業は適切な保険料を設定しやすくなります。
東京海上HDの統合レポートでは、北米で100を超えるスペシャルティ種目を展開しているとしています。異なる種類の保険を組み合わせることで、一つの保険分野で損害が増えても、他の分野が補う可能性があります。
ただし、専門性の高い保険であっても、想定を上回る事故が発生すれば大きな損失につながります。過去に収益性が高かったことだけで、将来も同じ状態が続くと決めつけることはできません。
東京海上HDの強み③ 地域と事業の分散
東京海上HDは、日本だけでなく、北米、欧州、中南米、アジアなどで保険事業を展開しています。さらに、国内損害保険、国内生命保険、海外保険、ソリューションという複数の事業を持っています。
例えば、日本で自然災害が増えた場合でも、北米や中南米の事業が支えになる可能性があります。反対に、北米で大型ハリケーンが発生した場合には、国内事業などが一定程度補うことも考えられます。
ただし、分散は損失を完全になくすものではありません。世界各地で自然災害が重なったり、世界的な景気後退や金融市場の下落が複数の事業へ影響したりする可能性もあります。
それでも、一つの国や一つの保険商品に利益を依存しすぎない事業構造は、東京海上HDの大きな特徴です。
東京海上HDの強み④ グループ会社の知識を共有できる
東京海上HDは、M&Aによって加わった海外グループ会社を、一律に東京海上のやり方へ変更するのではなく、それぞれの専門性や経営の強みを活用しています。
海外で開発されたサイバー保険などの商品を日本へ導入したり、国内企業が海外進出する際に現地のグループ会社が保険を提供したりできます。また、海外グループ会社が持つ資産運用の知識を、グループ全体で活用することも可能です。
東京海上HDは、商品や販売網の共有、資産運用力の活用、再保険の最適化、コスト削減などによるグループシナジーについて、2024年12月末時点で年間約1,000億円の利益貢献があると試算しています。
これは会社側の試算であり、毎年同じ利益が確実に得られるという意味ではありません。それでも、国内外に複数の事業会社を持つことが、規模の拡大だけでなく、グループ全体の競争力にもつながっていることが分かります。
成長戦略① 国内の新しい保険需要を取り込む
日本では人口減少が進んでいるため、国内保険市場は成長しにくいという見方もあります。しかし、社会の変化によって新しいリスクも増えています。
東京海上HDは、国内市場の成長分野として、主に次の領域を挙げています。
- ヘルスケア
- 中小企業
- サイバーセキュリティ
- 防災・減災などのレジリエンス
- GXなどの脱炭素分野
サイバー攻撃や情報漏えいは、以前より多くの企業にとって身近なリスクになりました。また、再生可能エネルギー設備の拡大によって、これまでにはなかった事故や賠償のリスクも生まれています。
東京海上HDは、欧米のグループ会社が持つ商品開発力やアンダーライティングの知識を国内へ取り入れ、こうした新しい保険需要を取り込もうとしています。
成長戦略② 北米と新興国の事業を拡大する
海外では、世界最大級の保険市場である北米を引き続き重要な成長地域としています。
東京海上HDは、北米における市場シェアにはまだ拡大余地があると見ており、既存事業の成長に加え、ボルトオンM&Aなども活用する方針です。
一方、ブラジルやアジアなどの新興国では、経済成長や自動車の普及、企業活動の拡大によって、保険需要が増える可能性があります。実際、ブラジルでは自動車保険を中心に事業規模を拡大してきました。
ただし、海外での成長には、買収価格が高すぎるリスク、買収後の業績悪化、各国の法規制、為替変動なども伴います。海外事業の拡大が常に利益成長につながるとは限らないため、M&Aの規律や買収後の収益性を確認する必要があります。
成長戦略③ 保険とソリューションを組み合わせる
東京海上HDが新しい成長の柱として力を入れているのが、「保険+ソリューション」という事業モデルです。
ソリューション事業では、防災・減災、サイバーセキュリティ、ヘルスケアなどの支援を行い、事故や災害による損害そのものを減らすことを目指します。
この事業には、主に次の効果が期待されています。
- コンサルティングなどによる手数料収入を得る
- 保険以外の新しい収益源を育てる
- 事故や災害の発生を抑え、保険金の支払いを減らす
- 顧客との関係を保険契約以外にも広げる
- 保険事業の損害率を改善する
ソリューション事業で得られる手数料収入は、巨大な保険リスクを直接引き受ける事業と比べて、必要な資本を抑えやすい特徴があります。そのため、事業が成長すれば、利益の拡大だけでなく、ROE*1の向上にもつながる可能性があります。
一方、現時点では保険事業と比べて規模が小さく、期待どおりに成長するかはまだ分かりません。新しい取り組みとして期待しつつ、実際の売上高や利益への貢献を継続して確認したいところです。
強みがあっても確認したいリスク
東京海上HDには、規律あるアンダーライティング、北米スペシャルティ保険、国内外に分散された事業構造など、複数の強みがあります。しかし、これらの強みが将来の利益や増配を保証するわけではありません。
保険会社には一般の事業会社とは異なるリスクがあり、東京海上HDへ投資する場合は、特に次の点を確認したいと思います。
| 主なリスク | 東京海上HDへの影響 |
|---|---|
| 自然災害の大型化 | 台風、洪水、地震、ハリケーンなどによる保険金の支払いが増える |
| インフレ | 自動車の修理費、建設費、人件費などが上昇し、想定より保険金が増える |
| 再保険料の上昇 | 大規模損失に備えるための再保険にかかる費用が増える |
| 金融市場の変動 | 株価や債券価格の下落により、運用資産の価値や運用収益が減少する |
| 為替変動 | 円高になると、海外事業の利益を円換算した金額が小さくなる可能性がある |
| 海外事業・M&A | 買収した企業の業績悪化や、想定した相乗効果を得られない可能性がある |
| 保険料の引き上げ | 収益改善につながる一方、値上げが続けば顧客が他社へ移る可能性がある |
| 規制・ガバナンス | 法令違反や情報管理上の問題が、行政処分や信用低下につながる |
自然災害とインフレの影響
損害保険会社にとって分かりやすいリスクが、大規模な自然災害です。日本の台風や地震だけでなく、北米のハリケーン、洪水、山火事なども東京海上HDの業績に影響します。
さらに、同じ規模の事故や災害であっても、資材価格や人件費が上昇すれば、建物や自動車を修理する費用が増えます。保険契約時の想定より修理費が高くなれば、保険金の支払いが増え、損害率やコンバインド・レシオが悪化する可能性があります。
保険料を引き上げて対応できる場合もありますが、保険料の改定には時間がかかります。また、値上げが続けば顧客の負担が増え、契約を維持できない可能性もあります。
再保険料が上昇するリスク
保険会社は、大規模な災害による損失の一部を他の保険会社へ移すため、再保険を利用します。
再保険によって一度に発生する損失を抑えられますが、世界各地で大規模災害が増えると、再保険料が上昇する可能性があります。十分な再保険を確保しようとすれば費用が増え、費用を抑えれば自社で負担するリスクが大きくなります。
そのため、どの程度のリスクを自社で抱え、どこから再保険へ移すのかという判断も重要です。
海外へ分散していても安心とは限らない
東京海上HDは、国内外へ事業を分散しています。日本で大規模災害が発生した際に、北米などの利益が支えになる可能性がある点は強みです。
一方、複数の地域で災害や大口事故が重なれば、海外展開の広さが損失の入口を増やすこともあります。海外利益が大きい分、円高による円換算額の減少や、海外の法規制、政治情勢などの影響も受けます。
資産運用にも価格変動がある
資産運用収益は東京海上HDの利益を支える一方、株式や債券などの価格変動によって損失が発生する可能性があります。
金利上昇は、新たに購入する債券の利回りを高める点では追い風ですが、すでに保有している債券の価格を下げる面もあります。金利上昇が必ず良い、あるいは必ず悪いとは単純に判断できません。
また、政策株式の売却益が利益を押し上げることもありますが、東京海上HDは政策株式を最終的にゼロにする方針を示しています。
今後は売却益に頼らず、保険本業やソリューション事業からどの程度利益を伸ばせるかが重要になります。
M&Aは成長機会であると同時にリスクでもある
東京海上HDは、海外保険会社などの買収を通じて事業を拡大してきました。買収によって専門性や販売網を獲得できる点は大きな強みです。
一方、買収した企業の業績が悪化したり、想定した相乗効果を得られなかったりすれば、買収時に計上した「のれん」の減損が発生する可能性があります。
過去のM&Aが成功しているように見えても、将来の買収が同じ結果になるとは限りません。買収価格が適切だったか、買収後も利益を伸ばせているかを確認する必要があります。
規制や信用に関わるリスク
保険会社は、契約者の個人情報や事故情報など、多くの重要な情報を扱っています。情報漏えいや不適切な保険募集、保険料の調整などの問題が起きれば、行政処分や業務改善命令だけでなく、顧客からの信用低下にもつながります。
保険は、事故や災害が起きたときに契約者を支える商品です。そのため、企業への信頼が事業の土台になります。業績や配当だけでなく、再発防止策やガバナンスの改善状況も確認したいところです。
一つの数字だけで判断しない
コンバインド・レシオが低い年でも、自然災害が少なかっただけかもしれません。反対に、一時的に数値が悪化していても、大規模災害による単発の影響で、本業の競争力そのものは変わっていない場合もあります。
また、最終利益が大きく増えていても、政策株式の売却益などが主な理由であれば、それが翌年以降も続くとは限りません。
そのため、東京海上HDを確認するときは、コンバインド・レシオ、保険料収入、資産運用収益、修正純利益などを組み合わせ、複数年の推移を見ることが大切です。
東京海上HDの強みや成長戦略には期待できる部分がありますが、それと同時に、どのような状況で利益が減るのかも理解しておきたいと思います。
おわりに
本記事をご覧いただき、ありがとうございました🐰
東京海上HDの利益には、保険を引き受けることで得る利益と、保険料などの資金を運用して得る利益という、2つの大きな入口があります。
保険本業の収益性を見るうえでは、損害率、事業費率、コンバインド・レシオが重要です。なかでもコンバインド・レシオは、受け取った保険料に対して、保険金などの支払いと事業経費がどの程度かかったのかを確認できる指標です。
東京海上HDは、国内損害保険におけるアンダーライティング力、北米のスペシャルティ保険、地域と事業の分散、国内外のグループ会社による相乗効果などを強みとしています。今後は、国内の新しい保険需要、北米や新興国での成長、保険とソリューションを組み合わせた事業の拡大を目指しています。
一方、自然災害、インフレ、再保険料の上昇、金融市場や為替の変動、M&A、ガバナンスなど、確認すべきリスクも少なくありません。強みや将来への期待だけで判断せず、実際の業績や財務、配当の推移も確認する必要があります。
次回は、東京海上HDの直近の業績と財務を確認し、利益がどのように推移しているのか、政策株式売却益を除いた本業の利益は伸びているのか、配当や自己株式取得を無理なく続けられるのかを考えます🐰
本記事は以上です♪
本記事をご覧いただき、ありがとうございました!
*1:ROEとは、自己資本に対してどれだけ利益を生み出したかを示す指標です。